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ここに、1枚の切符がある…

稚内→肥前山口の片道乗車券
金額は¥71680(学割)
有効期間56日

2013年8月現在発行できる、JR最長の切符。


まずは、この切符ができるまでの話から。


すべての始まり、きっかけは2004年にNHKで放送された「列島縦断 鉄道12000キロの旅 〜最長片道切符でゆく42日〜」という番組です。俳優の関口知宏さんがJR最長片道切符を使って日本各地を巡った番組で、当時から列車が好きだった私が鉄道旅行に本格的にハマることになった1つの要因となりました。

この番組で初めて最長片道切符というものの存在、概念を知ります。いつの日か、人生が終わる時までに1ヶ月以上かけて日本中を列車に乗って巡ってみたい…そう思いました。



最長片道切符へのあこがれから、本州をぐるっと1周する出札補充券の片道切符を作って旅行したのは中学生の時。


高校生の時には、最長片道切符のルートを旅行したらどのくらいの時間と予算が必要なのか、時刻表を見ながらシミュレーションしていました。





構想9年…
ついに、最長片道切符に必要な時間と資金が整いました。






最長片道切符は、時代によって大きく変化します。書籍「最長片道切符の旅」で有名な宮脇俊三さんが旅をした時には北海道の広尾駅から九州鹿児島の枕崎まで営業キロで13319.4キロ。関口知宏さんが旅したのは、当時最長片道切符のルートには含まれていない四国を加えた営業キロ11962キロ。その後、最長片道切符に大きな影響を与える変化は、

2010. 3.13東海道線 武蔵小杉駅開業
2010.12.04東北新幹線 八戸―新青森開業
そして…

2011. 3.12九州新幹線 博多―新八代開業
しかし、その1日前に

2011. 3.11東日本大震災


このように、ここ数年の間に最長片道切符のルートは大きく変化しています。(詳しい変遷は、デスクトップ鉄氏の最長片道切符ルートの変遷1961-2011)で述べられています)




一生に一度かもしれない、壮大な『最長片道切符の旅』をするにあたって、まず考えたのは、

自分でルートを決定したい!

ということ。


最長片道切符のルート算出については、単純に手計算で出せるものではないということはもちろんわかっていましたが、一体どうやって出したらいいのか全くわかりませんでした。

そもそも、高度な数学的知識がない私が最長片道切符のルートを自分で出すことができるのか…

正直わかりませんでした。
ただし、どうしても自分で納得する形でルートを確定したいという思いに妥協はできませんでした。




最初にとりかかったのは、切符のルールについて学ぶことからでした。片道切符とはどういう切符をいうのか、新在別線規定について改めて考えました。

次に、東日本大震災で鉄道が運行不能になっている区間の状況整理を行ったのが5月。この時点において、JRの路線が存在しているにもかかわらず、乗車券が発売不能となっていた山田線の宮古―釜石と常磐線原ノ町―広野が最長片道ルートから除外されることとなり、最長片道ルートが大きく短縮されることになりました。


ここから、最長片道ルートの決定に入っていきますが、今回のルート算出の上で、大いに参考にさせていただいたのが、近藤英明氏の「EXCELによる最長片道ルート探索

最長片道ルートの候補として考えられるのは、北海道を出発して本州を経て九州に至るルート。または九州を出発して本州を経て北海道に至るルート

北海道・四国・九州に入るJRの路線はそれぞれ1本ずつしかないため、3島のうち2島のみが最長片道切符のルートとなるわけですが、四国内の最長片道ルートは他の2島に比べてかなり短いため、最長ルートは北海道・九州を通ると考えることができます。

北海道内のルートは多くの人が計算結果として導き出している「稚内をスタートして青函トンネルに至るルート」をそのまま利用させていただくことにしました。

九州は、九州新幹線の開業によって最長片道ルートの変化が発生していました。こちらはブロックに分けながら、手計算で最長ルートを導きました。


問題は本州。

青函トンネルを出てから関門トンネルに至るまでの本州のルートを手計算で導き出すのは不可能です。ここで、近藤英明氏の「EXCELによる最長片道ルート探索」に掲載された内容と、ダウンロードできるようになっているEXCELワークシートを使わせていただきながら最長ルートを導き出していきます。

EXCELワークシートは東北・東日本・西日本の3つに分かれています。これは、本州全てを1度にルート検索しようとするとあまりにも時間がかかりすぎるためです。


まずは東北エリア。東日本大震災の影響で、常磐線の岩沼―いわきは最長片道ルートには入らないため、南部に行くためには、東北本線の福島―郡山か羽越本線の坂町―新発田のいずれかのルートを通ることになります。ここでエリアを分けて、青森→福島、青森→坂町の最長ルートをそれぞれ計算していきます。ここはうまくいきました。

西日本と東日本の境目は、北陸本線の糸魚川―富山、太多線の多治見―美濃太田、東海道本線の金山―名古屋の3区間で分割をしてルート検索をしていきます。3区間になると、1度エリアを出て再びエリア内に入るというルートも考えられるのですが…詳しい計算は上記のHPをご覧いただければと思います。ルートの多い東日本と西日本の計算をしようと思って、エクセルの『ソルバー』機能の実行ボタンを押すと…

『問題が大きすぎるため、ソルバーでは処理できません』

というエラーが出ました。何度実行しても消えないエラー。近藤氏はこのワークシートを利用して計算を行っているのに…どうして計算できないのかと考えた挙句、あることを思いつきました。



取り出したのは、棚の中に眠っていたwinXPのパソコン。データを移して問題を実行すると…

パソコンのExcel2003は高速で計算を始め、5分~10分経って計算結果をはじき出しました。どうやら、私の使っていたExcel2010では処理できなかったようです。。



様々な過程のもとルートを計算して本州内の3ブロックをつなげた時に一番長くなるルートを出します。そして、ついに決定した最長片道ルート。計算結果は、デスクトップ鉄氏の最長片道切符ルートの変遷1961-2011)で出された、2012年8月暫定最長ルートと合致していました。





そもそも、最長片道切符には、いくつかの定義がありますが、私は
・JRの営業路線のみ(切符が通しで発券できるもの、BRTを含む)を利用し、1枚の乗車券として発行可能な最も営業キロの長いルート

をその時点での最長片道切符と定義します。



ルートが完成。切符をお願いに行く準備は出来ました。
実際に駅に持っていったルートは以下のとおりです。


経由: 宗谷,[新旭川],石北,[網走],釧網,[東釧路],根室,[富良野],富良野,[旭川],函館,[岩見沢],室蘭,[沼ノ端],千歳,[(函)白石],函館,[五稜郭],江差,[木古内],海峡,[蟹田],津軽,[青森],奥羽,[新青森],東北新幹線,[盛岡],東北,[花巻],釜石,[新花巻],東北新幹線,[北上],北上,[横手],奥羽,[秋田],羽越,[坂町],米坂,[米沢],奥羽,[新庄],陸羽東,[小牛田],東北,[一ノ関],大船渡,[気仙沼],気仙沼BRT,[柳津],気仙沼,[前谷地],石巻,[石巻],仙石,[仙台],東北,[(磐)郡山],磐越東,[いわき],常磐,[水戸],水郡,[安積永盛],東北,[小山],水戸,[友部],常磐,[新松戸],武蔵野,[南浦和],東北,[赤羽],埼京,[池袋],山手2,[田端],東北,[秋葉原],総武2,[錦糸町],総武,[佐倉],成田,[松岸],総武,[成東],東金,[大網],外房,[安房鴨川],内房,[蘇我],京葉,[東京],東北,[神田],中央東,[西国分寺],武蔵野,[武蔵浦和],埼京,[大宮],川越,[高麗川],八高,[倉賀野],高崎,[熊谷],上越新幹線,[高崎],上越,[小出],只見,[会津若松],磐越西,[新津],信越1,[長岡],上越新幹線,[新潟],越後,[柏崎],信越1,[宮内],上越,[越後川口],飯山,[豊野],信越1,[直江津],北陸,[糸魚川],大糸,[松本],篠ノ井,[篠ノ井],信越1,[長野],北陸新幹線,[佐久平],小海,[小淵沢],中央東,[甲府],身延,[富士],東海道,[沼津],御殿場,[国府津],東海道,[大船],根岸,[横浜],東海道,[鶴見],鶴見,[浜川崎],南武2,[尻手],南武,[川崎],東海道,[品川],東海道3,[武蔵小杉],南武,[立川],青梅,[拝島],八高,[八王子],横浜,[新横浜],新幹線,[小田原],東海道,[三島],新幹線,[静岡],東海道,[豊橋],飯田,[辰野],中央2,[岡谷],中央東,[塩尻],中央西,[金山],東海道,[名古屋],関西,[亀山],紀勢,[和歌山],和歌山,[高田],桜井,[奈良],関西,[今宮],大阪環状,[京橋],片町,[木津],関西,[柘植],草津,[草津],東海道,[山科],湖西,[近江塩津],北陸,[米原],東海道,[岐阜],高山,[富山],北陸,[敦賀],小浜,[東舞鶴],舞鶴,[綾部],山陰,[京都],東海道(新幹線),[新大阪],新幹線,[西明石],山陽,[神戸],東海道,[尼崎],福知山,[福知山],山陰,[鳥取],因美,[東津山],姫新,[姫路],山陽,[岡山],津山,[津山],姫新,[新見],伯備,[倉敷],山陽,[福山],福塩,[塩町],芸備,[備中神代],伯備,[伯耆大山],山陰,[江津],三江,[三次],芸備,[広島],山陽,[岩国],岩徳,[櫛ヶ浜],山陽,[新山口],山口,[益田],山陰,[長門市],美祢,[厚狭],山陽,[門司],鹿児島1,[西小倉],日豊,[都城],吉都,[吉松],肥薩,[隼人],日豊,[鹿児島],鹿児島2,[(鹿)川内],九州新幹線,[新八代],鹿児島1,[久留米],久大,[夜明],日田彦山,[田川後藤寺],後藤寺,[新飯塚],筑豊,[折尾],鹿児島1,[吉塚],篠栗,[桂川],筑豊,[原田],鹿児島1,[博多],九州新幹線,[新鳥栖],長崎,[肥前山口],佐世保,[早岐],大村,[諫早],長崎

JR線営業キロ:10828.2km
JR東 BRT線営業キロ: 55.3km




切符をお願いに行ったのは博多駅。九州で一番大きな駅です。
窓口が比較的すいている時間を見計らって…

窓口の方「どうぞ。」
私「すみません。ちょっと…長い経路の切符を作っていただきたいのですが…」
窓口の方「はい。。」
私「これがルートなんですが、稚内から肥前山口までの片道切符なのですが…」
窓口の方「……。」

私「あっ、機械ではルートが多すぎてエラーが出ると思うのですが…」
窓口の方「少々お待ち頂けますか。」

3分後。

窓口の方「お待たせしました。経路が長いのですぐにというわけには行きませんが…」
私「ありがとうございます。よろしくお願います。」





こうして出来上がった切符。私の中での最長片道切符の旅はすでに始まっている。

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